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  • 執筆者の写真池永敏之

格差社会への変貌を読み解く

更新日:2022年8月10日


 私の新聞の読み方は、天声人語だ、社説だ、社会面だ、というように読む順番を決め、どこかを注視するのではなく、見出しを中心に興味ある話題を探しながら「見る」という方が正しい。スポーツ面では大谷選手など気になる選手の成績はチェックするし、「ひととき」欄の感動する記事には目を止める。また、「判官ひいき(弱者・敗者に同情し声援する感情)」というのか、弱いものに焦点を当てた記事も気になるが、最近は「経済的困窮者」に関する内容が増えているような気がしてならない。


1.時間ではなく、成果が賃金に反映される時代

 高度成長期と今を比べてみたい。昔はタイムレコーダーというのがあって、出社時と退社時にこれにカードを通して時刻を記録し、働いた時間に応じて賃金が支払われた。今も時給制の企業は多いが、IT企業などは「時間」ではなく、「成果」を買うので、たとえどんなに時間をかけても成果がなければ報酬はゼロだ。エクセルは同じアウトプットでも、使い方によってかかる時間が大きく異なるのは周知のとおりだ。他社より一足でも早く結果を出したい研究開発型企業では、成果報酬の方が公平で働き手のモチベーションが上がり、生産性や企業業績の向上に直結する。こうなると給与水準が上がり、優秀な人材が集まって、パフォーマンスがさらによくなるという好循環が生まれる。


2.日本的経営の成功

 昔は今よりも「時間」がゆったりと流れていた。製造業や建設業では、「金の卵」と呼ばれる中卒や高卒の生徒を地方から都会へ集め、5年、10年と歳月をかけて熟練職人に育て上げた。彼らは田舎の親へ仕送りできるくらいの初任給を得ていたが、それは「終身雇用」「年功序列制」「企業別組合」という日本型の経営システムが土台にあってのことだった。


「終身雇用」は、「会社は従業員と共にある」という欧米にはない日本独自の制度である。欧米で発達した「資本主義」の土台となる会社は、株主が投資する株式で資金を集める「資本的結合体」であり、会社は利殖を目的とした「資本家」のものとなる。そこで働く「従業員」は、「機械・設備」や「金(カネ)」と同じく会社の持つ「経営資源の一つ」とみなされる。株主から経営を委ねられた経営者は、株価のためには長年勤めた従業員を解雇するし、若手をベテランよりも高い給与でスカウトもする。労働者は常に「解雇」という陰と、「スカウト」という陽を睨みながら、労働市場での競争にさらされる。


 日本の「年功序列制」と「終身雇用制」の下での労働者は、「解雇」や「降格・減給」という心配をせずに、結婚、子育て、住宅や家電製品の購入というように、ライフステージの階段を着実に上がっていくことが出来た。余程のことがない限り、このステージから転落する人はいなかった。


3.欧米との軋轢

 欧米では、資本家の意向が重視され、企業の将来を見越した買収や合併などが頻繁に行われ、労働者は「解雇・減給・降格」などに苦しんだ。このため労働者は労働条件の改善や社会的地位の向上を目的に労働組合を結成する。産業革命で先行した英国では19世紀半ばまでに全国規模の職業別労組が生まれ、団結して資本家との賃金交渉を行った。20世紀に入ると米国で鉄鋼や自動車など大量生産型の製造業で産業別労組が成長する。この時期は経営側と対立し、しばしばストライキが行われた。


 労使紛争で疲弊した欧米企業に対し、日本の組合は「終身雇用」を基盤に「企業別組合」を結成し、労使は運命共同体として協調することで、昭和50年前後の「円高不況」を乗り越え、バブル景気を迎えることになった。しかし、欧米との「貿易摩擦」が激しくなり、海外企業の「参入障壁」とされる数々の「規制」や「既得権益」、「日本的経営」の見直しが迫られ、徐々に透明な市場へと開放や改革が行われた。その典型が「金融改革」であり、負の部分がリーマンショックによる金融機関の経営破綻である。


4.女性の社会進出と夫婦の変化

 暮らしが豊かになるにつれ、人の労働観にも変化が出てきた。大きな流れは「女性の社会進出」である。昔は「寿退社」といって、女性は結婚すると会社を辞め、「専業主婦」になるのが定番だった。今も続く「配偶者控除」という税制は、こうした男社会の遺物ともいえる。当時、「私作る人」「私食べる人」というインスタントラーメンのCMが、男尊女卑を根底にした男女の役割を規定するものとして過敏すぎるほどの物議をかもした。昭和50年代は40%だった大卒の割合は60%まで上昇し、高学歴化した女性たちが、結婚後も社会で活躍するようになり、「イクメン」なる言葉が生まれ、男女の性差が縮まった。共働き夫婦やシングルマザーのための法整備や制度の新設で、従来の「家庭制度」が大きく変わることになる。


5.正社員の淘汰と時間給社員(非正規雇用)の登場

 男性も、「社畜」と呼ばれるような会社に一生を捧げる働き方を嫌う者が増え、企業は安価で優秀な雇用の調整弁としての短期雇用者を求め、これを満たす「派遣労働制度」が出来上がった。求職者はハローワークに行かなくても派遣会社に登録すれば好きな時に仕事を紹介してもらえ、仕事が合わなければ比較的簡単にやめて次の職場に移れるようになった。しかし、「正規と派遣(非常勤)との給与の格差」や「雇用の維持の差」が大きな問題となって、今日に至っている。


6.時間よりも結果、同調より個性を求める成果主義

 正社員と派遣や非正規雇用との間には、渡るのが難しい川が流れていて、正社員を辞めて対岸に渡ると、元に戻るのが容易でなくなる。また、この川には、企画力や創造力をベースに様々な価値を生み出すクリエイティブな仕事を乗せた船が大海へ向けて航行し始めている。「IT技術者」や「ユーチューバー」、「ブロガー」、「ゲーマー」、「VRデザイナー」などに向いた船で、これらに共通するのは、働く場所や時間、雇用関係が規定されておらず、趣味の延長線上にあって、各人各様で個性的な働き方をすることである。同じ考え方、同じ見方、同じ感じ方の者がいくら集まっても、これからは飛躍、発展、進歩は望めない。違った考え方、違った見方、違った感じ方の人が大勢いて、初めて飛躍もあるし成長もある。


 資本が主体の物質的な経営では、「ハイリスク・ハイリターン」が常だが、個性が主体の創造的な経営は、「ローリスク・ハイリターン」が可能で、年齢不問、夢が人の数だけ無限大にある。しかし、従来と変わらないのは、「継続は力なり」であり、一つの道を究めなければ、満足できる地点には辿り着けないし、ゴールは他人が決めるのではなく、自分自身で設定する点にある。大切なのは、自分のやりたいこと、好きなことを、どこまでとことん突き詰められるかだろう。


7.欧米社会に吞み込まれる日本

 ここ数十年の歴史を振り返ると、日本が欧米の社会、とりわけ資本主義社会に取り込まれていく様子が分かる。海外からの参入障壁だった「日本的経営」の崩壊は、第二の明治維新ともいえようか。はっきり言えるのは、日本は西側諸国の一員であり、EUやNATO諸国が結束しているように、強い同調圧力が働いていて、これを無視できないということだ。この結束が崩れるとロシアや中国などの覇権主義国に付け入るスキを与えてしまう。私たち一人一人は、こうした大きな掌の上で踊らされているのだなぁと、つくづく思った。


(参考) 日本的経営とは、1970~80年代に経済成長を続けた日本の大企業の、際立った競争力の源泉とされる日本独自の経営システムのこと。 ジェームズ・C. アベグレンは『日本の経営』(1958年)の中で日本企業の特徴として企業別組合、終身雇用、年功制を指摘し、この3つは、日本的経営の「三種の神器」と呼ばれるようになった。(出典:グロービス経営大学院のMBA用語集より)


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