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  • 執筆者の写真池永敏之

初恋の人からの手紙

更新日:2023年12月22日



 小学5年生になって間もなく、東京都港区から千葉県松戸市に越してきた私は、東京の小学校との違いに戸惑い、新しい環境に順応できずにいました。その中で一つの救いが、KTさんからの手紙です。


 彼女は港南小学校の同級生で、白く清潔なブラウスにひだのついたプリーツスカートを穿いた姿が目に焼き付いています。ブラウスは襟にフリルのついたものや、肩から肘の上にかけての二の腕の部分が大きく膨らんだちょうちん袖などを身に着け、お嬢様風の着こなしが清楚なイメージを醸し出していました。指先の爪は爪噛み癖によって短く、顔立ちはふっくらとしており、下半分の輪郭に対して、控えめな目や口、鼻、右目の下の泣きぼくろが特徴的で、感情が爆発すると顔をクシャクシャにして泣くのですが、それが私の目には何ともかわいらしく映りました。


 片思いだと思っていた彼女から手紙をもらった時は、胸が高鳴りました。幼友達と別れ、新しい環境になじめず、寂しい思いをしていた11歳は、クラスの近況を知らせてくれる彼女の手紙の中でだけ、仲間とつながることが出来たのです。ところが、何回かやり取りをした後、突然、彼女からの返事が来なくなりました。こちらから手紙を送ってもなしのつぶてで、原因がわからずじまいでした。


 その後も思い出すたびに「なぜ?」と手紙のやり取りを振り返るのですが、全く見当が付きません。児童から学生へと成長し、その原因が自分にあるのだと分かるようになるまで時間がかかりました。


 彼女からの最後の手紙には、「池ちゃん、そっちのクラスで好きな人いる?」との問い掛けがありました。これに対して私は、軽率にも「MTさんと○○さん」と返信したのです。


 なんと愚かな・・・。きっと、この一言で私は彼女を傷つけてしまったに違いありません。時を巻き戻せるなら、「KTさん以外に好きな人はいない」という本当の気持ちを伝えたいと、今でも思っています。


(「信じられない噂」へ続く)


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