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  • 執筆者の写真池永敏之

西白井グランメッセ前のご婦人

更新日:2022年8月10日


 有難いことに私は孫を5人も授かった。1男、4女で、8歳が2人、4歳1人、2歳1人、8ヶ月(男児)が1人である。みんな可愛い盛りだが、とりわけ2歳の女児Cは赤ちゃんの頃から保育園に入れたせいか人見知りをせず、誰にでも手を振ったり、話しかけたりして愛嬌を振りまくので、よそ様にも可愛がられることが多い。


 Cは食欲旺盛でエネルギーに満ち溢れているのだが、自由奔放、縦横無尽で落ち着きがなく、お姉ちゃんの学校行事などには連れて行けないため、私と家内で預かることになる。

 先日の土曜日も、朝の9時にグレーの花柄のニット半袖シャツ、GUチャイルドを着たCがやってきた。家じゅうを「バタバタ」と走り回り、私の書斎の椅子に座ってノートパソコンを開こうとするので、片時も目を離せない。我が家は11階建ての10階のため、階下への配慮も必要になる。昨年のリフォーム時は、業者が誤って配管に穴をあけ、水が階下に漏れてしまった。騒音もクレームになるので、長時間家で遊ばせておくわけにはいかない。ちょうど西白井グランメッセ前で10時半からケーキの出張販売があるので、結婚10周年を迎えた息子夫婦に持たせてやろうと、Cを連れて買いに行くことにした。


 Cは自分の身長程もあるくまのぬいぐるみダッフィーの彼女のシェリーメイを抱え、嬉々として靴を履いてエレベーターに乗り込む。私はエレベーターの中に腰を下ろし、Cの目線で「ケーキを買いに行こうね」と話しかける。Cはまだ言葉を発しないが、身振り手振りや表情で気持ちを表わせるので、不自由しない。ニッコリと親指を立て「グー」サインを私に返してきた。シェリーメイとの相乗効果でCの可愛さはMAXに達している。




 エレベーターを降りると、私はCの小さな手を取って歩き出した。何とも言えない幸福感に包まれる。スロープで転ばないようにやや強く手を握り、Cのペースに合わせて進む。身長差のため、私はやや腰を屈め、つないだ手が離れないように気を遣って歩く。向かいの公園に行こうとするので、「まっすぐだよー。ケーキ買いにいくよー」と語りかけ、軌道修正する。行きかう人たちから「あら、可愛い」という囁きを耳にして、私は益々嬉しくなる。


 西白井駅の陸橋を渡ると、ケーキを目当てに20人ほどの列ができていた。「この子がちゃんと列に並んでいてくれるかなぁ」と不安に思っていると、後ろから70代半ばと思われるやや紫色がかったレンズの眼鏡をかけた品の良い白髪交じりのご婦人に、「可愛いですねー」と声を掛けられた。するとCはニコッと微笑んで彼女に手を振ったのである。ご婦人はびっくりして「いくつ?」と尋ねたが、Cは話せないので私が代わりに「2歳です。赤ちゃんの頃から保育園に預けているせいか、人見知りしないんですよ」と答えた。


 ご婦人もケーキを買いに来たらしく、一緒に列の最後尾に並んだ。ご婦人はCをみて、「もう大きくなっちゃったけど、うちの子もこんな時があったんですよ」とご自身の子育て期を思い出し、懐かしんでいるようだった。Cが飽きてくると、ご婦人はジャンケンをして遊んでくれた。Cはパーしか出せないので、勝負にならないのだが、そのうちご婦人は「ジャンケンポン」と言いながらCの小さな手を慈しむように握りしめた。

 

 ふとご婦人の顔を見ると、眼鏡の奥の瞳に涙が浮かんでいた。


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