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  • 執筆者の写真池永敏之

独身先生の結婚観

更新日:2022年8月10日


 中2のクラス担任のMS先生は若くて独身で、黒縁のやや度が強い眼鏡に、当時流行していた東京ロマンチカの三條正人のように髪を七三に分け、ドライヤーをかけて油で固めていました。ジャージで教壇に立つ先生もいる中、たいてい紺のスーツにネクタイを締め、銀行員のようにも見えました。バスで遠足に行った時は、車内で当時流行りの「ブルーライトヨコハマ」を低音で歌われたのが印象に残っています。先生は私たちと年齢が近いせいもあって、生徒から人気がありました。おませな女生徒からは、よく「先生は何で結婚しないの?」とか、「どんな女性が好みですか?」などとからかうような質問をされていました。これに対して先生はまじめに、「現在の顔で結婚相手を決めてはいけない。いずれ後悔する。年を取ればだれでも老けて昔の面影が亡くなるものだ。だから親の顔を見て決めなさい」と言うのです。口の動きに合わせて動く先生の喉仏を見ながら、あこがれのKMさんがおばさんになる姿は想像したくないなぁと、私はひそかに思うのでした。 


 MS先生は数学を教えているので、私が5月のテストで0点を取ったことを気に掛けているようでした。私を職員室に呼び、家庭訪問がしたいので、親に伝えるようにというのです。他の生徒と比べると私は精神的に幼く、自立心も弱いので親の指導が必要と思ったのでしょう。先生の口から親に自分の弱い面を暴露されるのがイヤで、余計なおせっかいはやめて欲しいと思う反面、まさか本人を傷つけるようなことは言わないのではないか、という甘い考えもありました。しかし現実は厳しかったです。先生は、「池永君の場合、数学の成績が極端に悪く、5月の標準学力テストの得点が0点でした。このままだと高校受験が心配です」と、母親を前にして私が傷つくようなことをストレートに言うのです。私が恐れていたのは、成績不振で高校に上がれなくなることです。母親も事の深刻さを知り、塾に行かせようかと父に相談していました。


(「放送事故と竣工式」へ続く)


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